2013年10月25日

幻想小説神髄

『幻想小説神髄』読んだ。
ちくま文庫の世界幻想文学大全の3冊め。かなり読み応えがあったので、1日に1編とか2編ずつ味わいつつ読めたと思う。
以下はツイッターに書いた1言ずつ感想にちょっと書き足したものです。

ジャン・パウル「天堂より神の不在を告げる死せるキリストの言葉」
夢に見た終末の幻視がかっこよすぎる。「神はいない」という言葉に篭められた絶望、そこになにもないという恐怖。

ノヴァーリス「ザイスの学徒」
自然について知を深める喜びみたいな、具体的に何の話かはよく分からないんだけど…はちきれんばかりの好奇心とあこがれを胸に旅に出る、世界の描写は美しい。
「遠くから音楽が流れて来、すずやかな炎が水晶の杯から人々の唇に流れ入って燃えるあいだを、異郷の客たちはその遍き旅路のめずらしい思い出を語った。」

ルートヴィヒ・ティーク「金髪のエックベルト」
美しいお伽話が一転して悪夢に変わる。世界が一変してみると、わずかな幸福な時間の記憶すら蝕まれていることを思い知らされる。
厭な話だけど夢のように品がいい。

E・T・A・ホフマン「黄金宝壺」 石川道雄訳
子ども向けの童話で部分的に読んだことがある気がする、いい魔法使いと悪い魔女みたいな…でも実際は善も悪もなくって、貧しい現実と、理性じゃどうしようもない恋と、純真な目にのみ映る美しい世界と、愉快な喜劇があるだけだった。
羽箒と砂糖大根が恋したっていいやん!と変なところに噛み付く。
あとフロックコートのかくしに林檎を入れておいて後で齧るとか、火酒と檸檬と砂糖で檸檬酒を作って飲んで酔っ払うとか、なんかこのちょっと古い翻訳って食事の描写が瑞々しく夢みたいに美味しそうに感じる。

ヴィリエ・ド・リラダン「ヴェラ」 齋藤磯雄訳
ドイツロマン派をつまんできて、フランスに入ったら、うわあ耽美。しかしこれは癖になる。宵闇、あやしく光る宝石、ハンカチに染み込んだ血、灯明が照らし出すイコンのマリア像、彼女の不在。『残酷物語』は読んでみよう。

アンブローズ・ビアス「アウル・クリーク橋の一事件」
ラストシーンの光景に尽きるねこれは。

フィオナ・マクラウド「精」
ファンタジーの中に宗教・文化の対立があり、若者と老人の世代の対立があり、支配者と被支配者の対立があり…そして若者に殉死を強いる聖職者の狂気とか、ゆっくり進行する死を見守る時間とか、印象的な場面が多い。
何と言っても、月夜に海の海豹に説教する老聖者の場面!

アーサー・マッケン「白魔」
平井訳の方が好きかなあ。南條訳は平明で読みやすいんだけど、(怪奇の方じゃなく幻想の方に収録した意図もあるんだろうけど)やっぱし、無垢な少女の行動に真の罪が垣間見えるおぞましさが真骨頂と思うので、初読の時ほどのインパクトがなかった。

W・デ・ラ・メア「なぞ」
何度読んでも、なんて不条理で、なんて不思議なさみしい余韻を残す話なんだろうと思う。人が書いたお話とは思えない……マザーグースみたいな口承で磨かれた不条理な物語をさらに洗練した完成形って感じがする。

トーマス・マン「衣装戸棚」
またなんか不思議な話だなーしかし前半の主人公が旅に出る感じは凄く理想的というか、時代順にこれまで読んできてずっとお伽話と思っていたのが、そろそろ他人事でないというか読んでいて巻き込まれるというか。
この19世紀末というのは個人的に凄くもの狂おしい気持ちにさせられる。トーマス・マンはなんかもっと読みたいな、『ヴェニスに死す』とか。
今どこを走っているのか分からない汽車の旅も、名も知らぬ街をひとり歩く夜道も、衣装戸棚の女が語るしずかな物語も、すべては死の床で見た夢なのだ、とでも言わんばかりの気配がする。

ロード・ダンセイニ「バブルクンドの崩壊」
驚異の都、バブルクンド。その美しい描写と共に、滅びの預言を携えて旅する男の姿が強く印象に残った。物語を読んでいて、時折、人ひとりが背負うには重すぎるんじゃないかっていう人生がある。バブルクンドの最期を告げる役割もそうだ。

J・シュペルヴィエル「沖の小娘」
なんて可愛い話だろう。特に思い余った波が小娘を殺しに来るところなんかキュンキュンする。全体的にほんのり淋しい感じがして、小娘の淋しさをなんとかしてあげたい波ができるのが、小娘の息の根を止めることっていうのがね、こう……波ですから。
堀口大學の訳けっこう好きだな。

フランツ・カフカ「父の気がかり」
これも可愛い話だった。オドラデクなら今うちの引き出しの隅で眠ってるぜ。

ブルーノ・シュルツ「クレプシドラ・サナトリウム」
なんかカズオ・イシグロの『充たされざる者』読んだ時の感触を思い出した。思い通りに体が動かない、頭が朦朧とする夢から夢へと渡り歩くみたいな。こっちはサナトリウムの設定とかSFっぽくて好きだなあ。


posted by すずる at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書
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