2015年11月01日

10月に読んだ本

10月に読んだ本は5冊でした。

『古代道路の謎』 近江俊秀
『蜂に魅かれた容疑者』 大倉崇裕
『死者の誘い』 ウォルター・デ・ラ・メア
『新ナポレオン奇譚』 G・K・チェスタトン
『半七捕物帳 6』 岡本綺堂

近江俊秀先生は、前に博物館で二上山麓の古代寺院の講演を聞いた時にすごく面白かったのをふと思い出して、入手しやすい新書を買って読んでみた。
文献、発掘調査、地図、航空写真、様々な知識を駆使して分かってきた古代の駅路のこと。歴史、制度、人の移動、工法などアプローチもいろいろで面白い。特に吉備の話がよかった。

W・デ・ラ・メアは最初は訳文に苦戦していたけど、「その死の睡りのなかで、どのような夢を見るか、それがわれらをためらわせる」ってハムレットの引用が出てきたところで、「どんな夢を見るか」ってのがリフレインしてるのがはまって、やっと世界観に入れた。そうしてみるとなんといっても繊細な情景描写が美しい。陰に沈んだ人々、憂鬱に沈んだ心、生者と死者の曖昧な境界、不思議な友情、孤独。
最後のシーンには深く深く胸を打たれた。

チェスタトンを久々に読んだら、中学生の頃に好きだったものはほんといつまでも好きだなーと改めて思った。原点に戻ってきたような気分。
「彼は口を開きさえすればなんとも申し分のないほど馬鹿げたことを言うから、いまさらやつを馬鹿とよんでみてもぜんぜん定義したことにはならないように思えるんだ」
みたいな言い回し、しみじみ好き。
才気が突っ走りまくる文章をにやにやしながら読んだけど、冗談も極まってくると真に恐ろしくなる瞬間がくる。

誰がなってもだいたい同じという理由で類まれな馬鹿がイギリス国王になっちゃって、冗談の限りを尽くして、でももう一人の狂人が現れて王様を道化にしてしまうと、馬鹿を冷笑していた平凡な人々が熱狂に飲み込まれてしまう。人はどんなくだらない理由でも熱狂できるし、そして死ぬ。
誰が王様になってもだいたい同じように、反物屋とかの商店主がいきなり市長になってもだいたいそれなりにやってるし、将軍になればそれなりに戦って生き生きしてるっていう、考えようによっちゃ滑稽で恐ろしいし、冗談を貫いたまま叙事詩みたいに書かれればそれなりに胸を打つっていう。

『半七捕物帳』はこれで一通り読み終わった。
渋みを増して魅力的な半七、描かれた江戸の風物、文章のリズムがうまくはまってするする読めた。現役の半七もいいんだけど、作者に過去の捕物を語ってる半七も粋なお爺ちゃんって感じでいい。
必ずしも勧善懲悪因果応報ってわけじゃなくて、悪人が捕まって裁かれたり、罰が当たる時もあるけど、被害者とか巻き込まれた人が不幸になることもあって、そういう淡々とした描写がリアルな語りと思わせるのかもしれない。
posted by すずる at 23:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書メモ

2015年10月06日

8、9月に読んだ本

8月はいろいろあって1冊も読めなかったので、実質9月に読んだ本メモ。

『眼の力』 戸田鍾之助、戸田博 (再読)
『芝生の復讐』 リチャード・ブローティガン
『怪奇小説という題名の怪奇小説』 都筑道夫 (再読)
『MONKEY vol.6 音楽の聞こえる話』
『あなたは誰?』 ヘレン・マクロイ

再読含めて5冊でした。

ブローティガンは鱒釣りが良かったのでもう1冊買ってきた。
詩を書く人が書いたエッセイみたいな散文みたいな。印象に残る情景が色々あるけど、子どもの眼に映る情景描写が好き。昔すごい遊び人だった叔父さんと釣りに出かけた先の町で見た熊の死体の行方とか、ハロウィンの提灯を持って歩くのを船になぞらえた描写とか。それから大人になってからのハロウィンでお菓子を準備したのになかなか子どもが来ないから……って話おかしい。
かつて墓地だったとこに保険会社の建物が建って、そこに残された木が死者たちはどこに行ったのか不思議に思ってる話とかもいい。また時間をおいて再読しよう。
訳もいいけど、解説の岸本佐知子も男前。

都筑道夫は、今年読んだ『街角の書店』のジョン・スタインベックのとこに、「蛇」は都筑道夫が「近代怪談の辿りつきえた最高の作品」と激賞したって書いてあったので読んでみたいなーと思ったら、これに短編まるごと入ってると教えてもらって読んでみた。
そのジョン・スタインベックの「蛇」は、1度だけ会った女のことを目に入れるのもおぞましく思い、軽蔑し、再会を怖れつつも、それでいてその姿を街で探してしまうようになる、魔性に魅入られた風な描写よかった。
実はこの本再読で、20代前半の頃に読んでたと思うけど、全く覚えてなかった。たぶん最後の方の展開にナニコレ?ってなったんだと思うけど、今の眼で読むと、ばりばりの技巧が分かるなー。
その溶けていくような余韻と共に、情景描写がいいなーと思った。主人公の記憶、アメリカから江戸に翻案した作中作の舞台、絵の景色。

『MONKEY』は音楽特集号。
2011年の話。モンキービジネスvol.14が、音楽生活号になるはずだったんですよね。だからMONKEYと音楽という取り合わせは、あの日分岐してしまった、こっちじゃないほうの世界を思い起こさせる。個人的に。
デ・ラ・メア「奇妙な店」がいい。
柴崎友香「バックグラウンドミュージック」。仲が良くも悪くもない姉弟の釣り場と過去を巡る数時間のドライブ。お互いにあまり興味ないし仲良くもないけど微妙に親密な空気。あと舞台が小豆島なのもちょっといい。
あと小山田浩子の動物園の話が好き。思いがけず百合展開を読むとなんかすごくご褒美をもらった気分になる。
それから小沢健二のエッセイ良かった。ボリビアで採れた銀と携帯電話が変えた世界。最後の音が印象的。

8月はFSSの新刊が出たという記念すべき月でした。あと文藝別冊のゆうきまさみ特集けっこう良かった。
posted by すずる at 23:01| Comment(0) | 読書メモ

2015年08月02日

6、7月に読んだ本

6、7月に読んだ本は再読含めて5冊でした。

『街角の書店』 中村融編 創元推理文庫
『月の部屋で会いましょう』 レイ・ヴクサヴィッチ 東京創元社
『コールド・スナップ』 トム・ジョーンズ 河出書房新社
『雲なす証言』 D・L・セイヤーズ 創元推理文庫 (再読)
『ユーゴスラヴィア現代史』 柴宜弘 岩波新書

『街角の書店』は奇妙な味系、しかもブラックユーモアのあるアンソロジーとかストライクゾーンど真ん中で、すごく満足度高かった。こういうアンソロジーが新刊で読めるのは嬉しい。
ジャック・ヴァンスがちょうクール。ミルドレッド・クリンガーマン好き、この描写が。
ジョン・スタインベックがこんな面白変な話書いてるって知らなかったな。「蛇」は都筑道夫が「近代怪談の辿りつきえた最高の作品」と激賞した、とかそんなん探すしかないと思ったら、『怪奇小説という題名の怪奇小説』を教えてもらったので買ってみた。そのうち読む。

レイ・ヴクサヴィッチは、岸本佐知子編の『変愛小説集』で「僕らが天王星に着くころ」を読んだのがすごく印象に残ってて、読んでみた。奇想があって、ずっと前に彼女に愛想を尽かされてるのにいまいち気づいてない情けない男がいて、最後の瞬間まですこし不思議に舵を切るか恐怖に舵を切るか分かんないみたいな短編揃い。描写っていうか言い回しが面白い。
ちょっとせつないロマンティックなものを期待して読んだけど、恐怖に向いたものの方が印象に残った。
「ふり」がよかった。現実主義者の5人のアメリカ人が、くじで幽霊役を選んで、幽霊を信じられるかやってみる話。謎めいててジャンル越境的でこの長さでこんなことできるんだなーこの読後感うまくまとめきらん。
あと「最終果実」、「彗星なし」、「ピンクの煙」あたりが好き。わけわかんないのもけっこうある。

トム・ジョーンズは、最近twitterで舞城王太郎が毎晩深夜に怪談を1話ずつ100夜語るっていう深夜百太郎というアカウントをフォローして毎晩読んでたら、舞城の文章をもっと読みたくなって、舞城訳のトム・ジョーンズを積んでたのを思い出して読んだ。
これすごいいい短編集だった。あっちもこっちも詰んでる人生で、普通に話してたと思ったら自然にジャンキーの妄想になってって、その戯言の中にちらっと理知的な何かが見えるの。
以下はついったーに書いてた一言ずつメモ。
「ジャングルの奥のとても深い場所」。ザイールでボランティアしてる医者と新しく来た若い医者達のパーティ。歌ってるようなラリってるような。ココナッツにライム入れて〜って歌があるのか。今まで何を見てアフリカに来て、それからそこで何を見るのか。薄っぺらい奉仕精神をすり減らして帰っちゃう医者と帰れない医者。リアルな酔っ払い描写。
「流砂」、人の心を動かす魔術師とも言われるコピーライターが、これでもかってくらい病んでて、金の動きは理想と現実なんて簡単なもんでもなくて、うわー救いがねえーなのにいっちゃってる頭から次々に人の同情を得る、多額の寄付をさせるイイ手紙を書いちゃうっていう。
その行動はそれでも餓死しそうな誰かを救いはしたかもしれなくて、登場人物には神になった気分か?みたいに言われちゃったとしても、なんだろうなーこのこれ、物凄く汚いものの中に尊い真実みたいなののかけらがあるっていうか。あー読み終わってぐるぐるする。
「ピックポケット」、年老いた糖尿病の詐欺師と地下室の蜘蛛の話。ああーこの悪い男の一人称かっこいいかわいいたまらない
「ウウ〜ベイビーベイビー」…今度の主人公は整形外科医(やっぱり糖尿病)。飢餓感の中交通渋滞に巻き込まれるし、30歳に見える42歳の彼女がビッチじゃないかと疑ってて、人生の終わりが近いことをうすうす察して恐れてる。
死を恐れてるのか、死の瞬間が自分の理想とするようなマッチョな死に方じゃないことを恐れてるのかわかんない喜劇的な描写の中、ふっとこの瞬間を待っていたみたいな空白があってそこがすごくよかった。
「ロケットファイア・レッド」、今までずっとおっさん主人公だったのが、イキのいい18歳の女の子になったらかわいいなこれ! 1/4アボリジニで一日中サーフィンして、貯金をはたいて仲間とマシンを作り上げてドラッグレーサーになっちゃう。基本的に誇り高い女の子は好き。かわいい。

漫画は『血界戦線』を1〜10巻読んではまりました。
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2015年06月05日

5月に読んだ本

5月に読んだ本は

『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』 チャールズ・ユウ
『幽霊世界』 アンソロジー
『アメリカの鱒釣り』 リチャード・ブローティガン

の3冊でした。

円城塔訳が気になって読んだチャールズ・ユウは、よく分からないながらも、引きこもり気味でほんのり孤独で居心地いいこの読み心地…って思ってたけど、終盤の展開はけっこう鼻につーんときててあれだね、父子関係の描写に弱い。

新潮文庫の『幽霊世界』はアメリカ作家のモダンホラーアンソロジー。
元々そんなモダンホラーは好みじゃなかったけど、期待してたマキャモンもそれほどじゃなく、印象を覆すような作品はなかった。
トマス・F・モンテルオーニ「真実の輪」は戦場帰りの友人のリアルな病んだ描写に引き込まれた。いつの間にか自分が戦場に連れて行かれてるとこがいい。
ラムジー・キャンベル「旅行案内書」がけっこう好き。M・R・ジェイムズ好きなお爺ちゃんが旅先でジェイムズ違いで古本の旅行ガイド買って、怪しい書き込みを発見してだんだん逸脱しちゃうの。
怪談好きが旅行中に夢想する心理がほんとこれ。

『アメリカの鱒釣り』は前に柴田元幸のエッセイで訳文をすごく褒めてたのを覚えてたので、あべののスタンダードブックストアに行った時に見かけて買ってみた。
読んでみると自然な語り口で、口語っぽいのに古びてない、40年前の翻訳って感じがしない。80年〜90年代の語りかけるような訳って今読むとけっこう時代を感じるけど、そういうのがない。
なんかすべての話題が鱒釣りになるのに鱒釣りのことは特に語ってないという……クリーク、鱒、時々羊がいて、それから便所……読んでて思ってもみないような形容詞が出てきて意味がぽんと飛ぶんでぎりぎり楽しめるような、ぎりぎりついていけないような微妙なラインだけどうん、すごく新鮮で楽しかった。
訳者あとがきもとても刺激的だったので、この人の著書探して読んでみよう。

漫画ではヒストリエ9巻、それ町14巻良かったです。

それから『とめはねっ!』14巻で完結。
博物館に行った時、書を注意して見るようになったのは、これの影響。
なんていうか、すごくジェンダーから自由な主人公2人だったな〜と、いい意味で。
それから加茂ちゃんと三輪ちゃんが最後に提出した作品のくだりも良かった。部長さんとか元々評価が高い子もいるけど、良い指導者と出会って、部活に打ち込んできたんだな〜っていうのがこの2人の描写でしみじみきた。
あと帯ギュのゲストが地味にいたのも最終巻のお祭りぽくて楽しい。
すごく良かった。
posted by すずる at 22:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書メモ

2015年05月03日

4月に読んだ本

4月に読んだ本は2冊でした。
『MONKEY vol.5 死者の歌ーイギリス・アイルランドの物語』
『不死の人』 ホルヘ・ルイス・ボルヘス 白水uブックス

今回のMONKEYは英国特集。
詩だったり、抜粋+絵なこともあるけど、いまいちぴんとこない部分が多かった。
私にとってのイギリスって、主にミステリとか怪奇とかのジャンル小説で、今回は今まであまり触れたことない要素が強かったというか。
ディケンズ「眉に唾をつけて読むべき話」、幽霊譚。やっぱすごいやディケンズは。久しぶりに肌に粟立つ、首の後ろにちりちりくる怖い話読んだ。鮮やかな反転。対談でディケンズの文章あまりうまくないみたいな発言読んだ気がするけど、この剛腕の前で文章の良し悪しとか意味ある?とは思った。
W.S.マーウィンの詩はよく分からなかったけどヤシについての文章はすごく良かった。
なんにせよ、イギリス文学クエスト途中で止まってたの思い出して、いろいろ読みたくなった。

ボルヘスの短編集を読むのは3冊目。
「死んだ男」とか、淡々と起きた出来事を羅列してるようで、合間にとんでもないセンテンスをぶっ込んでくるから意識が遠くに持っていかれる。その男の生を語る上で、最重要人物の存在が、関係が十分語られてないんじゃないかって疑心暗鬼を呼ぶ。
だってねえ、何読んでも、書かれたよりももっと禁忌で隠微な関係が隠れてそうな雰囲気があるんだよなーボルヘスは。
「タデオ・イシドロ・クルスの生涯」はほんの7ページで男の45年の生涯を、瞬間に凝縮するこの描写…! 物凄かった。
あと「ザーヒル」、「敷居の上の男」が好き。なんかどの話もそれぞれ違う話なんだけど、どれも人が己の運命に出会う話に見えてくる。

漫画では、1巻読んで積んでた『BLUE GIANT』、2巻読んだら面白くて続きも一気読みでした。
主人公の、これがジャズだ!っていうハートが強いのも熱いんだけど、要所要所で理解者がちゃんと居てくれるのが嬉しいんだよな〜。
兄ちゃんとか、師匠とか、音楽の先生とか。(音楽の先生とのシーンすごく好き)
とうとう同世代の仲間もできて、早くこの子らのライヴシーン読みたい。
posted by すずる at 23:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書メモ