2013年11月16日

MONKEY vol.1

初めて読んだ柴田元幸訳は、バリー・ユアグローだったと思う。
その次に、図書館で見かけたエッセイを読んで、なんか気になる……と思ってた時に、柴田元幸責任編集の雑誌が創刊したんだった。
文芸誌を読む習慣はなかったけど、なんでかこの雑誌だけは購読しようと決めて、2008年から2011年まで読んでいました、『モンキービジネス』。

記念すべき1号はテーマが野球で、文芸誌がいきなり野球特集?って思いましたが、中でも小川洋子と柴田元幸の対談には、こんなレベルの高い知的な会話って、しかも阿呆にもよく分かる平易な言葉遣いでですよ、あり得るんだ、と打ちのめされる勢いでした。

この雑誌で初めて知った、ここから興味を持って読んだ本がけっこうあって、中にはかなり影響受けたような本もあって、この雑誌のおかげでたくさんの出会いがありました。

そして、休刊から2年。
『MONKEY』新装刊ですよ!
特集は「青春のポール・オースター」、それにモンキービジネスでも楽しみにしていた古川日出男や川上弘美、岸本佐知子の連載も。

ポール・オースターは20代の頃の断片。それぞれ完成されたものじゃないんですが、ひとつひとつ読んでいくと共通点が、同じ素材が料理されていることが分かってきて、長編を読むのとも短編を読むのとも違う、まるで音楽で1つの曲のリミックスを聞くのに似たような、他にあまりない読書体験でした。
対談も読み応えがあるし、企画のオースター少辞典とかも手間と愛情がかけられてることが分かります。

川上弘美の連載はモンキービジネスから続いている変なご近所の人の話で、相変わらずで嬉しくなる。
古川日出男は宮澤賢治リミックス「なめとこ山の熊」。最後にこのテンションの高まりを持ってくるのがすごい。

これからまたこの雑誌が読めることを心から嬉しく思います。


タグ:文芸誌
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2013年10月25日

幻想小説神髄

『幻想小説神髄』読んだ。
ちくま文庫の世界幻想文学大全の3冊め。かなり読み応えがあったので、1日に1編とか2編ずつ味わいつつ読めたと思う。
以下はツイッターに書いた1言ずつ感想にちょっと書き足したものです。

ジャン・パウル「天堂より神の不在を告げる死せるキリストの言葉」
夢に見た終末の幻視がかっこよすぎる。「神はいない」という言葉に篭められた絶望、そこになにもないという恐怖。

ノヴァーリス「ザイスの学徒」
自然について知を深める喜びみたいな、具体的に何の話かはよく分からないんだけど…はちきれんばかりの好奇心とあこがれを胸に旅に出る、世界の描写は美しい。
「遠くから音楽が流れて来、すずやかな炎が水晶の杯から人々の唇に流れ入って燃えるあいだを、異郷の客たちはその遍き旅路のめずらしい思い出を語った。」

ルートヴィヒ・ティーク「金髪のエックベルト」
美しいお伽話が一転して悪夢に変わる。世界が一変してみると、わずかな幸福な時間の記憶すら蝕まれていることを思い知らされる。
厭な話だけど夢のように品がいい。

E・T・A・ホフマン「黄金宝壺」 石川道雄訳
子ども向けの童話で部分的に読んだことがある気がする、いい魔法使いと悪い魔女みたいな…でも実際は善も悪もなくって、貧しい現実と、理性じゃどうしようもない恋と、純真な目にのみ映る美しい世界と、愉快な喜劇があるだけだった。
羽箒と砂糖大根が恋したっていいやん!と変なところに噛み付く。
あとフロックコートのかくしに林檎を入れておいて後で齧るとか、火酒と檸檬と砂糖で檸檬酒を作って飲んで酔っ払うとか、なんかこのちょっと古い翻訳って食事の描写が瑞々しく夢みたいに美味しそうに感じる。

ヴィリエ・ド・リラダン「ヴェラ」 齋藤磯雄訳
ドイツロマン派をつまんできて、フランスに入ったら、うわあ耽美。しかしこれは癖になる。宵闇、あやしく光る宝石、ハンカチに染み込んだ血、灯明が照らし出すイコンのマリア像、彼女の不在。『残酷物語』は読んでみよう。

アンブローズ・ビアス「アウル・クリーク橋の一事件」
ラストシーンの光景に尽きるねこれは。

フィオナ・マクラウド「精」
ファンタジーの中に宗教・文化の対立があり、若者と老人の世代の対立があり、支配者と被支配者の対立があり…そして若者に殉死を強いる聖職者の狂気とか、ゆっくり進行する死を見守る時間とか、印象的な場面が多い。
何と言っても、月夜に海の海豹に説教する老聖者の場面!

アーサー・マッケン「白魔」
平井訳の方が好きかなあ。南條訳は平明で読みやすいんだけど、(怪奇の方じゃなく幻想の方に収録した意図もあるんだろうけど)やっぱし、無垢な少女の行動に真の罪が垣間見えるおぞましさが真骨頂と思うので、初読の時ほどのインパクトがなかった。

W・デ・ラ・メア「なぞ」
何度読んでも、なんて不条理で、なんて不思議なさみしい余韻を残す話なんだろうと思う。人が書いたお話とは思えない……マザーグースみたいな口承で磨かれた不条理な物語をさらに洗練した完成形って感じがする。

トーマス・マン「衣装戸棚」
またなんか不思議な話だなーしかし前半の主人公が旅に出る感じは凄く理想的というか、時代順にこれまで読んできてずっとお伽話と思っていたのが、そろそろ他人事でないというか読んでいて巻き込まれるというか。
この19世紀末というのは個人的に凄くもの狂おしい気持ちにさせられる。トーマス・マンはなんかもっと読みたいな、『ヴェニスに死す』とか。
今どこを走っているのか分からない汽車の旅も、名も知らぬ街をひとり歩く夜道も、衣装戸棚の女が語るしずかな物語も、すべては死の床で見た夢なのだ、とでも言わんばかりの気配がする。

ロード・ダンセイニ「バブルクンドの崩壊」
驚異の都、バブルクンド。その美しい描写と共に、滅びの預言を携えて旅する男の姿が強く印象に残った。物語を読んでいて、時折、人ひとりが背負うには重すぎるんじゃないかっていう人生がある。バブルクンドの最期を告げる役割もそうだ。

J・シュペルヴィエル「沖の小娘」
なんて可愛い話だろう。特に思い余った波が小娘を殺しに来るところなんかキュンキュンする。全体的にほんのり淋しい感じがして、小娘の淋しさをなんとかしてあげたい波ができるのが、小娘の息の根を止めることっていうのがね、こう……波ですから。
堀口大學の訳けっこう好きだな。

フランツ・カフカ「父の気がかり」
これも可愛い話だった。オドラデクなら今うちの引き出しの隅で眠ってるぜ。

ブルーノ・シュルツ「クレプシドラ・サナトリウム」
なんかカズオ・イシグロの『充たされざる者』読んだ時の感触を思い出した。思い通りに体が動かない、頭が朦朧とする夢から夢へと渡り歩くみたいな。こっちはサナトリウムの設定とかSFっぽくて好きだなあ。


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2012年12月18日

小川洋子の偏愛短篇箱、など

今月に入って少し読書欲が戻ってきたのはいいのですが、久世光彦に始まって、黒鳥忌に中井英夫を読んで、小川洋子の偏愛短篇集を読んで、山尾悠子の『ラピスラズリ』を読んで、津原泰水の猿渡くんを読んで、だんだん戻って来られなくなってきた。
夏にSFが読みたくなるように、寒くなると此方と彼方のあわいが曖昧な話が読みたくなってくる。

『小川洋子の偏愛短篇箱』は、前書きを読んだ後に1ページめくって最初の短篇のタイトルと作者名が目に入った瞬間に、これはただの名作だの傑作だのが並んだアンソロジーじゃないな、これは凄いところに連れて行かれるなというのが分かって、その予感は裏切られなかった。

世間にはほんと凄い短篇があるもんですね。
そしてこれらを選ぶ作家の眼というのも興味深い。
読者はあっさり打ち倒されてすげえやとか言ってりゃ済むけど、作家はこんなものと切り結んでいくのだからなあ。
とてつもねえや。

この中で好きなものと言われれば内田百閨A乱歩、宮本輝、川端康成。
横光利一はなんじゃこりゃ、死病を患った妻の看病という生々しくて重いはずの題材なのに、妙に乾いたユーモアは。私の偏愛箱にしまう。
好きというわけではないけれど、どうしようもなくあとを引くのは谷崎潤一郎と三浦哲郎。
田辺聖子はほんとワンアンドオンリーだなあ。

高校生くらいのいくらでも読める時期に私は偏食してしまったので、というのは受験勉強がいやでいやで本ばかり読んでいたら、同級生にやっぱり読まないと文学史とか頭に入ってこないよね偉いねとか言われて、そんな不純な動機の読書に見える本は読まない、私は面白そうと思った本を、好奇心以外の動機では読まないと誓ってしまったからで、今思うと高校生くらいで一度読んでおくべき本がすっかり抜けてるなあと思います。文学だから、なんとかだから、とかこだわらずにもっと色々と読んでおけばよかった。


 
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2012年12月08日

久世光彦の乱歩

好きな作家って言われてすぐに名前を上げる作家さんじゃないんですけど、なにか特別な時に読みたくなる作家さんの一人に久世光彦がありまして、『一九三四年ー乱歩』を再読してました。3回めか4回めの再読。
改めて、これを書くのはすごい野心ですよなあ。
満都の読者よ、冬の一夜、大乱歩の『梔子姫』に酔え!

ですよ。
最初に読んだ時は大学生で、その時と大きく違うのは、探偵小説作家を少しは読んで知って、だいぶ名前に意味が出てきたことだなー。
最初読んだ時は横溝とか小栗虫太郎くらいしか読んでなかったし。
浜尾四郎がどんどんいいやつに見えてくる。

それで、ここ数年もしかして、と思ってることがあるんですけど、私、乱歩はわりと読んだつもりでいたんですが、実は有名な長編読んだことない?
ポプラ社のは小学生の時にあらかた読んでいて、あと1冊だけ小学校の図書室に文庫が置いてあったんですよね。多分、新潮文庫の短編集。
それで、初めて「押絵と旅する男」とか「芋虫」とか読んだのは強く覚えてるんですけど、パノラマ島とか孤島の鬼とか陰獣とか読んだ記憶があるようでないよ?
読んですっかり忘れてしまっている可能性もあるんですが。あんなに夢中で読んだ少年探偵団だって、なんも思い出せないし。

とりあえず、これをタイトルで買って読んだり、乏しいコヅカイをやりくりして「RAMPO」を映画館に見に行ったりしたくらいには好きだったと思うのに。
まあ映画も、竹中直人がナントカだよ、横溝くんって言った声しか覚えてない。

しかも家にもあまり文庫ないしな。高橋葉介が表紙の文庫は集めてたからちょっとあると思うけど。
というわけで、近々長編読んでみようかと思います。

今回読んでいて思い出したのは、小春日和のぽかぽかした図書室で「芋虫」を読んで、これを読んだことは誰にも言えないという気持ち。
今じゃ読んだもの片っ端からネットに垂れ流して平気な体ですが、このお話は私と作者と登場人物だけの秘密、っていうよろこび。これもまた読書の楽しみと思いました。


 
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2012年07月05日

南極点のピアピア動画

多分、ニコ動っぽいもの、それも綺麗なジャイアン……じゃなくて、綺麗なニコ動というか、あり得る理想的なニコ動っぽいものの連作短編集。

全力で遊ぶ匿名の人々が集まることで、わりと身近な「面白そう!」があれよあれよという間に宇宙に届いてしまうという……なにこれ燃える。
こんなの、最高にわくわくします。

理系男萌えの私としましては、最初の話と最後の話に出てくる郁夫くんにちょう萌えました。同じ嗜好の方におすすめしたい。

 南極点のピアピア動画
 著者:野尻 抱介
 出版社:ハヤカワ文庫JA
 発売日:2012-02-23
 価格:¥ 651
 ISBN:4150310580

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