2012年05月07日

バレエ・メカニック

津原さんの小説の感想を書くのは難しい。
ヘタなことを書いて、未読の人に陳腐な印象を植え付けてしまったら、それはもう罪悪だ。

7歳から脳死寸前の植物状態だった少女の失われた大脳を「東京」という都市が補完する、まるでシュールレアリスムの絵画に迷い込んだような異常事態を描く1話目。
その描写自体凄かったのに、それから時が流れて事件が遠い記憶となり、少女の断片を探し求める2話目、3話目がまた津原さんの本領発揮という感じ。

直接語られない部分、仄めかされる感情、行間が豊かなんだな。

同性愛だったり近親姦だったり異性装だったり男娼だったり登場人物たちはどこかしら一般的な社会規範から外れていて、けれど狂人には狂人の論理があると最初に読んだのはどこだったか忘れたけど、それぞれがそれぞれの目的を、人とは違う自分のルールを持っている。

傍観者から見たらそれぞれ凄まじい人生を、読者の感慨すらどこ吹く風で意固地に貫き通した果てに連れて行かれた風景は、なんとも言いようのない美しさがある。

 バレエ・メカニック
 著者:津原 泰水
 出版社:ハヤカワ文庫JA
 発売日:2012-01-25
 価格:¥ 693
 ISBN:4150310556

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2012年05月03日

地図集

『地図集』(董啓章)を読んだ。

「少年神農」は私的短編ベスト入り。
神話が最強の毒を探す少年と少女のロードノベルになっちゃうのも素敵だし、茶畑に戻った時なんかの描写もさらっと書いてるのにすごくいい。
後でページ数を確認して、読後感に対して少なくてびっくりした。濃密。

「永盛街興亡史」も好みだなあ。
3人の女と街の歴史、時間が混沌としてとてもいい。血の繋がりも心の繋がりも記憶も歴史も家も現在のアイデンティティも街そのものも静かに失われていく。
あーきゅん、うぇんしー、と女の名を声に出して静かに呼びかけたくなる。

「地図集」は地図を読むことは歴史を、物語を読むこと。
発想の面白さもあるけれど、ユーモアより香港という都市はこういうアイデンティティを生むのか、と気づかされる感じ。
遠い過去を語るような体裁だけど、切れば血が出そうに生々しい。

それはあのどこまでも伸びていく権力の外に存在し、すなわち、それは存在などしないということになるのだ。
存在しない場だけが占有されない。


香港の作家の小説の直接邦訳というのはこの本が初めてだそうで(今まであったのは英訳からの和訳だそうで)、そういえば直接旅行で行ったことはないけど友人の旅行話を聞いたり、香港映画とか香港が舞台となった作品やゲームをやったりして香港そのものに感じていた距離感はそれほど遠くなかったのに、そのわりに香港が生んだ作家って全く知らないことに改めて思い当たると不思議な感じがする。
もっと読みたいな。

 地図集
 著者:董 啓章
 出版社:河出書房新社 単行本
 発売日:2012-02-21
 価格:¥ 2,520
 ISBN:4309205895

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2012年04月25日

原色の想像力2

『原色の想像力2』を読んだ。創元SF短編賞アンソロジー、1は読んでないけどなんとなく読んでみた。ちょっとずつ感想。

「繭の見る夢」
同人小説っぽい印象。なにか内容と量が合ってない感じがして……最初の文章のままもっとだらだら長く読むか、もっとずっと短く読みたい。
収録に際して中途半端に削ったときに、大事な萌える部分を削ってしまったんじゃないのという気がしてならない。

「ニートな俺とキュートな彼女」
星新一とか藤子F不二雄がもっと短くうまくまとめてそうな話。あまり新味を感じなかった。

「WHAT YOU WANT」
最初は入りにくかったけど、他の収録作が内容に比べてちょっと長いなと感じるものが多かったのに対して、これだけもっともっと読みたいと思った。
新作ですってスペオペを出されてもまず私は読まないので、ここで読めてよかった。
著作が出たらチェックする。

「プラナリアン」
最初は雰囲気があってよかったんだけど、ラストが尻すぼみだったもったいない。

「花と少年」
読みドコロが選評を読んでもよく分からなかった。

「Kudanの瞳」
深夜アニメっぽい。雰囲気だけで内容が薄く感じる。

「ものみな憩える」
この中に並んでいるとすごく文章に安定感があって読んでいて落ち着く。
単品で読んだら、どうかな……。

「洞の街」
完全に、合わなかった。読めないこともないけど読んでいて読みづらい。ここまで合わないと思うのも滅多にないので、逆に個性があるというか、はまる人はすごく好きなのかもなあ。

選評が実はいちばん面白かったかもしれない。
どういう視点で読むのかとか、アンソロジー前提だとこういう選び方するのかとか。
 
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2012年04月19日

超哲学者マンソンジュ氏

柴田元幸訳ということで衝動買いしていた『超哲学者マンソンジュ氏』を読んだ。

構造主義についての研究書っぽく始まりながら、読み進めていくとあれって部分が増えていく。

徹底して嘘。徹底して曖昧。徹底して冗談。
本当にキレる人の本気はこんなに知的でこんなに笑える。

9章なんか、笑いながらもすごい高みにのぼっちゃったなあと唖然とする。
構造主義とか一片も分かってなくても面白いしなんか凄いもの読んだ気になれるという変な本。

寄稿された「まえがき/あとがき」、柴田元幸のエッセイ、はては参考文献、索引まで抱腹絶倒。

 超哲学者マンソンジュ氏
 著者:マルカム・ブラドベリ
 出版社:平凡社ライブラリー
 発売日:2002-05
 価格:¥ 1,050
 ISBN:4582764312

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2012年03月26日

ほんやくとぶんたい

ぼくは何も巨匠たちを剽窃することを恥じるからでなくて、それよりもぼく自身の声をとりもどすことができないのを怖れるのである。

奴隷みたいな読書の結果として、ぼくらは内部に数多くの個性を、数多くの声を持ち歩いているから、自分の声で語ることのできる人間というものはまことに稀れなのだ。


ヘンリー・ミラーの兄貴もこう言っておられた。

元々私はミステリ好きで、最近はSFとかもつまむけれど、翻訳ものをわりと読むのです。
で、周囲で古い翻訳ものを読むたびに古いのは読みにくい、新訳出ろ! とか、メジャーどころは全部新訳にして! みたいな意見を見ることがあるんですけど(私もたまに言うときがある)、昭和の翻訳を新しく訳し直すのがかならずしもいいわけじゃないよね、と。

すごく信頼してて訳者買いできる方というのもいるんですけど(私的には浅羽莢子さんとか安原和見さんとか)、なんとなく翻訳は、原作となるべく同時代の人が訳したものの方が読みたい感じ。

中にはほんっと難渋な文章もありますけど、原作と昭和の訳文が合わさって最強みたいな本もあるからなー。

柴田元幸さんが近年サリンジャーを新訳した時に、今の空気で訳したから、今回の訳は早く古びてしまうだろうって感じのことを書かれていて、けれど読んでみても(それ自体はすごく素敵だったけれど)何が今っぽいのかはよく分からないまま……。

あ、『たったひとつの冴えたやりかた』とかは分かりやすかったかな。あの年代独特っぽい。

まあでも基本的に、文章そのものについてあまりきちんと認識して、考えて読んではいないんだなー。

まあそんなこととか、自分の文体とかをつらつら考えていてぐるぐる。
 
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