2004年10月16日

電車に乗りながら考えること

 一日電車に乗っていた。
 どこかからどこかへ移動する途中、本が手放せない。
 今日は伊坂幸太郎の『グラスホッパー』を持っていた。どちらかというと好きな作家だけど殺し屋達の物語は僕の心を浮き立たせることはなかった。
 今日、でなければ、印象は違っただろう。
 
 電車の乗り換えでホームの階段をのぼる時、2段飛ばしでかけのぼっていく少年に追い抜かされた。
 一歩一歩踏みしめて歩く僕は、もうあんな風に走ることはできない。
 そんな考えが浮かび、すぐに自分で否定する。僕だって、まだ走れるはずなんだ。それが今でなければ。今、ゆるやかな熱におかされてなければ。

 『グラスホッパー』を読み終えたので、駅の本屋で2冊目を物色する。
 どうして本が手放せないのか。電車の振動に揺られていると、自分自身の思考に押しつぶされそうになるからだ。
 たとえば、何もすることがなくって向かいに座っている人をぼんやり眺めている時、そう好きでもない旋律が耳から離れなくなることがある。
 今日の場合それは「ある愛の詩」で、昔家にあったオルゴールの音色が流れ始めるとそれが鳴り止むことはなく……僕はその物悲しい音色が大嫌いだったんだ……そういう時、本でも読んでなきゃやっていられなくなる。

 何を買おうか。なかなか僕のアンテナにひっかかる本がない。
 きっと僕は何も読みたくないんだろう。けれど僕には時間がない。次の電車がきっとすぐにやってくるから。クリスティの短編集はどうだろうか。あれならきっと僕を疲れさせないし退屈させない。……だめだ、小さな駅の本屋には短編集がない。
 迷ったすえに、小川洋子の『寡黙な死骸 みだらな弔い』、柄刀一の『火の神の熱い夏』を買う。
 電車の座席に落ち着いて、早速小川洋子を読み始める。
 この選択は正解だった。奇妙にリンクする短編、かすかに香る死の匂い、冷たい手触り。移動し続ける僕の気分にぴったりだ。

 僕の気分……そう、今の僕の気分を言い表すと、捨てられた犬に近いと思う。
 捨てられて右も左も分からない子犬ではない。老犬。捨てられた事情も捨てた主人の考えもすべて知って(いるつもりで)達観してみせつつも、どこかで自分に与えられた孤独に慣れずにいる老犬。それが僕だ。

 今、電車はどちらの方向を向いて走っているのだろう。本から目を離して、ふと自分が今どこにいるのかわからなくなる。僕は間違えた電車に乗らなかったか? 今向かっているのは右か左か、西か東か。……まあどちらでも大差ない。僕は止まっていない。移動している。

 無事に降りようと思っていた駅で降りる。

 僕は繁華街を歩いている。人込みの中でかすかに息が荒くなる。僕は熱におかされている。
 目に入るすべてのものに噛み付きたくなる。あの信号が青になるのが早すぎる。まばゆいお店の照明から目をそらす。ふと看板の文句が目に飛び込んでくる。「名古屋の都心・車道に堂々誕生」。車道という町は都心だったんだろうか。僕はそこのライヴハウスに何度か行ったことがある。好きなバンドが出ていて、そのバンドがもっと大きなライヴハウスに移るまで、通ったのだ。けれど思い出せない。そのライヴハウスの名前を。

 僕はそれなりに悲壮な顔をして歩いているつもりだった。
 けれど、ショウウィンドウに映った僕の姿は、口を半開きにし、目にくまをつくった見苦しいものだった。
 醜いと見苦しいはちょっと違うと思う。
 ただ醜いというのではなく、人の目を気にした見苦しいという言葉には僕の小心さがよく表れている。

 僕はまだ歩いている。
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2004年10月13日

スイッチ

 元々、私には躁鬱的なところがある。
 そう激しい変化ではないのだけれど、すべてがポジティブな瞬間からすべてがネガティブな瞬間へスイッチがかわるのがはっきりと分かる。

 私は神を信じない。
 けれど、神の不在を感じる瞬間はこれからくるのだ。
 神の不在と、そして神がいないにも関わらず、神を必要とする瞬間が。
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2004年10月04日

職人

働いた。
手持ちの札はワンペア。ブタではないが勝負をかけるにはお話にならない。ブラフにつぐブラフの綱渡り人生。

イチローってほんとにスゴイ。

最近、縁もゆかりもない人の日記を読んでいる。
職人気質の人で、自分のやるべきことを心得ている。こんな考え方するんだなあというのが読んでいて面白い。

新聞の人生相談に、仕事がつまらない、続かない、自分のやるべきことが見つからないという相談が載った。
回答は「仕事がつまらないと言いながらあなたはそのつまらない仕事すらつとまらないのだ。とにかくやれることをやってから自分の道を探せ」というさっぱりしたもの。
半分同意。
何かをするべきだ。けれど、もやもや考えるのも必要だ。
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2004年09月08日

彼女

彼女が生まれ育った町。彼女と訪れた町に、今滞在している。
彼女が生まれ育ち、そして死んだ町に。
今回の旅が決定した時から覚悟をしていたことではある。
やるべきことをやり、うまいものを食べ、酒を飲んでも、どこかに彼女がいる。

 悲しいのとは違う。彼女がいないことと自分がまだ生きていることにひたすら困惑している、と言った方が近い。なぜこの町に、彼女抜きで訪れているのか。

年老いたら祖父母の住んでいた山で暮らすのだと言っていた彼女。
彼女の墓はどこにあるのだろう。電車から彼女と訪れた風景を見ながら考えた。
あの山か。あの山か。二人で歩いた山はあの山か。

相当酔っ払ってふと思った。
ここに来たくなかったのは彼女の記憶を上書きしたくなかったからなのか。
忘れるのはいい。思い出したくない。けれど、彼女を他の記憶と差し替えることだけは許されない。
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2004年08月06日

かばんに着替えとポケミスを突っ込んで船に乗り旅に出た。
海沿いの小さな温泉街に宿を取り、海と温泉と少しの魚とミステリの夜を過ごしている。
潮騒は鳴りやむことがない。規則正しい波の音にページをめくる手はいつか止まり、私はなにかを考えていた。

『黒と青』読書中。なかなか進まない。
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